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釜から焼きたてのクッキーが取り出され、
なるほどジンジャークッキーねと一人頷く。
厨房係の肩にちょいちょいと触れてみた。
驚き顔で振り向いたが、私だと分かった瞬間に笑顔になって、
一枚おすそ分けをくれた。味見してくださいますか、と言われて、
頬を赤く染める。物欲しげな様子を察したのだ。
こくん、と頷いて口に入れたら、
想像以上に美味しくて満面の笑みになった。
またもや心の声に気づかれたのか、油紙に包んだクッキーを持たせてくれた。
皆気のいい優しい人たちで、その日を待ちきれない
私が毎年のように、早々厨房を訪れるのを覚えてくれているのだ。
廊下で遭遇したディアンにいつもありがとうの感謝をこめて、
丸ごと油紙を押し付けたら、きょとんとし、固まってしまった。
にっこりと笑って食べてね。特別のおすそわけなのよと伝えた。
ディアンは、目礼し、ありがとうございますと目を潤ませた。
手首を優しく取られ、手の甲に唇を落とされる。
真摯な眼差しに、気恥ずかしくなり背を向けた。
ちら、と振り返った後、ぱたぱたと走り去る。
もう、気障なんだから。
心臓が止まると怖いから、逃げるに限るわ。
厨房の前を歩いていたらリシェラ様の声が聞こえた。
甘い香りにつられたんだなとくすくす笑う。
大人びているようで、あどけない素顔もあって
掴めない女性だといつも思う。
楽しそうな笑い声にどんな話をしているんだろうと
気になるけれど、待っていればいいと結論付けた。
待ちきれなくなって、扉の前に立っていたら
いきなり開け放たれ、文字通りリシェラ様が飛び出してきた。
恥らうように頬を染め、油紙を押し付けてくる。
慌ててそれを受け止めて、たずねた。頂いていいものか。
おすそわけだから受け取って欲しいと言われたので、
慌てて目礼する。なぜか目頭が熱い。
不安げな彼女の手首をとり手の甲にキスをすると、
顔を真っ赤にし、背中を向けた。あっという間に見えなくなってしまう。一度振り返るという、いじらしい様子に、何て可愛いんだろうと
その様子が、しばらく脳裏から離れなくて困った。
(好きは増幅するんだな)
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