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last supper

最後の晩餐をあなたと。

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総一朗×まどかの似非な和物カップルで、行きます。
26、告白です。
R15くらいかな。

続きからご覧くださいませ。

いや、もうちょっと話を膨らませられたら
長編としてサイトにアップするんですけどね。
一話読みきりなもので急展開ですみません。

年の差、擬似兄妹な師弟関係です。

拍手[0回]


彼は、一回りも年上で、私の先生だ。
男爵令嬢の私と、芸事の師。
身分が違うのは傍目からも明らかだった。
見た目も年の離れた兄妹にしか見えず、私が彼を密かに想っていることなど
誰も想像すらしていないだろう。家族も、当の本人も。
いつも、優しく、臆病で弱いのに
それでも、私を守ろうとしてくれる。
まさしく妹を可愛がる兄のように。繊細で、美しい手は、頭を撫でてくれるだけ。
周りから思われている通りの関係を示そうとする。
だから、私も彼好みに、妹を演じて見せているのだ。
大好きな兄を慕う、穢れのない純真な妹。

小憎らしくて愛しい貴方。
私がどれだけ、あなたを好いているかも知らないでしょうに。


歯がゆいくらいだった。


「君がそんな間違いをするなんて。今日はどこか具合でも悪いのかい? 」
「いいえ」
心配そうに見てくる彼を恨めしく見つめ返す。
不協和音を奏でる弦が耳障りだけれど、集中すらできないのだ。
目の前のこの人を思う気持ちが恋に変わったのはいつからだろう。
「もう、今日はここまでにしよう」
 放たれた言葉が信じられず、頭を上げる。
 合わせた視線。絡み合う眼差しで先生は、淡く微笑むばかりだった。
「疲れているんだろう。昨日も縁談相手と……」
「何よ、私の気持ちも知らないで! 」
 激しく言い募り立ち上がる。彼は私の激情に驚いていた。
「私は、日向の家に生まれた以上、自分の務めは果たすつもりでいたわ。
女学校でもそつなく皆の手本になるように
目立ちすぎず、それでも、皆から一目置かれる存在でいることが
当たり前で。お茶にお花に、お琴に、お裁縫、
お家に帰っても、先生に教わって毎日同じことの繰り返し。
嫌じゃなかったのよ、それでもね。
私が生きている意味、存在する価値って何かしらって、
考えたら、家のために、必死に自分を磨いてお嫁に行って、
旦那様に尽くし、生まれた子の為に良き母になる。
それしか、ないからよ。私じゃなくても皆そうだわ
……抗っては生きられないのだもの」

ぐ、拳を握り締める。爪があたって皮膚から血が滲んだ。
痛々しい物でも見るような目を向けていた彼が、ふと立ち上がり目の前まで来る。
そっと、取られた手に、心臓が、とくんと鳴った。
「っ……」
「駄目だよ。大切にしなければ」
ポケットから取り出したハンカチーフを、くるくると手のひらに巻かれた。
優しすぎる仕草。涙が、瞳の奥から溢れてくる。

「どうして、優しくしてくれるの。世話になっている家の娘だから?
 芸事を教えてくれるだけの先生なんかに同情されても惨めになるだけよ」
「違うって言ったら? 」
 頬を撫で、包み込んだ手のひらは、驚くほど熱かった。
 ふるふると首を振る。今聞いた言葉の意味を考えて、
そして彼に問いを返すために。
「どういう意味なの」
「……心底惚れているんだよ、まどかに。こんなおじさんから
想われたら気持ち悪いかもしれないけれど」
 切羽詰ったような、声音。強く、抱きしめられて、息をつめる。
夢、それとも、現。暫く、それを知覚できなくて
呆然と腕の中に捕らえられたままだった。
彼の息遣いを、肌に触れるほどの距離で感じたのは初めて。
気がついたのは、顎を掴まれた時。
影が近づく。頬に息が触れる。
その瞬間をただひたすら待ち望んでいた私は、
生まれてはじめてのくちづけを永遠にも長いときに感じた。

「……お兄様」
「先生じゃないのか」
「先生なんて呼びたくないのよ、
だってあなたは幼い頃、遊んで下さったお兄様で、
私の大切な殿方なんですもの。
世界で一番愛しているお方に距離を感じるのは嫌だわ」

ぎゅ、と抱きつく。彼の背中も腕も思ったより、
ずっと広くて、逞しくて、自分とは違うと感じられた。
まさしく男の人。
「おじさんって……ふふ。私はそんなこと思ったこともないのに。
大人の男性からしたら私こそ子供でしょう」
「そう、思えたら楽だったのにね。
いつ頃からか、僕にとって君は女になってたよ」
胸の中、甘えるように頬を寄せて、鼓動を確かめる。
同じくらい高鳴っているのが不思議。
「ね、口づけて。大人の女の人にするみたいに」
 眼鏡を外して、着物の袂に仕舞う。
その様に見惚れている隙に肩を抱かれた。
躊躇いなんて、感じさせない仕草で、唇がこじ開けられる。
すっと押し入ってきた舌が、熱く絡んでくる。
貪欲な動きに支配されている内に、自然と口づけに応じていた。
湿った音が響く。粘膜で混ざり合う水が、熱い。

激しくお互いの唇をむさぼり合って、ようやく
口づけが終わる。吐息が宙ではじけていた。
「火をつけるな。止まれなくなるだろう」
「……お兄様のものになれるなら、どうなったって構わない」
「馬鹿な事を」
挑発に、彼がひるんだ気配を見せて体を離した。
私は唇を尖らせ、不満を訴える。
「なら……私を連れて逃げて、お兄様」
早く、一刻も早く。
この贅沢な箱庭から逃れたかった。

「そうしたら、小さな躊躇いなんて、消えてなくなるわ」
じわ、とまた涙が滲んでくる。
彼の手を握りしめると汗ばんでいて緊張が伝わってきた。
震える両手が背中に回る。
「後で、悔やんでも二度と手を離してやらないぞ」
再度抱きすくめられた腕の中で、恍惚の吐息をついた。
約束をするみたいに、口づけが落ちてきた。
甘く、息がかすれる。

「悔やむくらいなら、最初から好きにならないわ」
「同じ気持ちだよ」
頭を抱きしめられて、きゅんと胸が疼いた。
「行こう」
大きな手のひらが、私の手に重なる。
そして、この日、箱庭の世界を飛び出した。

駆け落ちをまさか、この私がすることになるとは
思いもしていなかったが、
胸に満ち足りた感情しかなくて、今しか見えなかった。
この先の未来が、茨の道だとしても、戻るつもりなど最早なかった。
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